【完結】bitter step!
だからボクは、

「――入れば」

そんな、少し礼の欠ける言葉しか思い付かなかった。


ゆっくりとドアが開かれる気配を感じたけれど、ボクは天井を仰いで腕で顔を隠したまま。
動くのが億劫だった。
それにこうしていれば、目を合わせずに済むから。


部屋に入ってきた【誰か】は、ボクの不自然な出迎え方に驚いたのか、小さく息を飲んだ。

――……美紗、ではない、音だった。


「……なお?」

と、その人が呼びかける。


低くて、穏やかで、優しい声。
ボクを気遣い、心配するその声。


「……先輩……ッ!」

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