【完結】bitter step!
「彼女が好きになったのは」


先輩の両手が、真っ直ぐに伸びてくる。
ソレがボクの両頬を包むように触れたのと、ボクの喉が鳴ったのは同時だった。


「きっと、『岸本直』という1人の人間だよ。男とか女とか、関係ない。なお自身だよ」


目が逸らせなかった。
この人は、ボクの不安をあっさりと取り除く。


『男の子みたいになりたい』とか『ならなきゃいけない』とか、『本当は女の子なのに』とか。

全部、ボクが勝手に難しく考えて、勝手に自分を見失っていただけなんだ。
拠りどころを失くして、誰かのせいにしたくて、出来なくて、苦しんでもがいた。


ちゃんとボク自身を見てくれている人はいたのに。
近くに、いたのに。
< 535 / 707 >

この作品をシェア

pagetop