【完結】bitter step!
「ねえ、純平は覚えてる? 美紗はあそこにいた」


切り出し方が、少し唐突すぎたようだ。
引っ込めるタイミングを失ったのかボクの頭の上で止まった彼の手首を掴んで、そっと下に降ろす。


「棒だか何かを持った奴らに囲まれてさ、今にも泣きそうで」

純平に乱された髪を整えながら、言葉を紡いでいく。

ポカンとした顔の純平は、ボクが何のことを話しているのか分かっていないのかもしれない。
もしかしたら、忘れてしまっているのかもしれない。


「純平がボクに、美紗を守れって言ったんだ」

ゆっくり、ゆっくり、恐竜の胴体をぐるりと一周しながら話し続けた。


「男は人前で泣くなって」


ピクリ、純平がその言葉に反応したのが、あの時のことを思い出したからなのか自分のセリフの過ちに気付いたからなのか、ボクには分からない。
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