【短】Another Platonic
そのまま黙っていると、葵は
「あ、そっか」
とひらめいた声を出した。
「卓巳は彼女いるもんね」
俺はひんやりとした机に右頬を置いたまま、何も答えなかった。
少々鈍いこの女の子に、俺は確実に惹かれ始めてたわけやけど
今思えば、鈍いのはお互い様やったな。
俺も自分の気持ちにまだハッキリ気づいてなかったし、
妙なイライラと、もどかしさがあるだけで、その正体が何なのかわかってなかった。
「葵」じゃなく「水野」って苗字で呼んでたとこにも、微妙な距離が表れてるよな。
でも、恋愛うんぬんを抜きにしても、葵といるのは楽しかった。
映画の話とかよくした。
あの頃はまだDVDがない時代で、お互いのビデオを貸し合ったり。
そういえば、葵に貸したビデオはいつもきっちり巻き戻して返ってきたけれど、
一度だけ、テープが途中になってたことがあるねん。
なんとなくそのまま再生して見てみたら、ちょうど俺が一番好きなシーンだった。
もしかして葵もここが好きなんかな、って思った。
ささいなことやけど、嬉しかったな。