【短】Another Platonic
【3】壁
「卓巳。この映画って興味ある?」
ある日の放課後、ふたりきりで帰っていると、
葵は鞄の中から、細長いチケットを2枚取り出した。
「お姉ちゃんからもらったんやけど、観に行けへん?」
「行く行く!」
公開前から観たいと思ってた邦画の鑑賞券。
ふたつ返事で俺は答えた。
「んじゃ次の日曜あたりにしよっか」
葵も嬉しそうだ。
俺たちはその映画に出ている俳優の話で盛り上がりながら、駅までの道を歩いてた。
駅前には3階建ての大きな本屋がある。
その前を通りかかった時やった。
「あれ? 卓巳」
甘ったるい、聞きなれた声。
足が止まった。
「やっぱり~! 卓巳だぁ」
「……マミ。なんでこの駅に?」
あ、やば。
嫌な言い方やったかな。
不安になったけど、マミちゃんは気にならない様子やった。
「近くの本屋さんに欲しい参考書がなかったから、来ちゃった」
来ちゃった、って……。
参考書の入った茶色い紙袋を胸に抱き、マミちゃんは内股で走り寄ってくる。
俺の左隣の葵が一歩、後ずさった。