【短】Another Platonic
「よかったね、卓巳。観たい映画のチケット手に入って」
「え……?」
「んじゃわたし、バイトがあるから先に帰るね」
「お、おい。水野っ」
さっそうと立ち去る後ろ姿を呼び止めようとしたけれど、葵はふり返らなかった。
駅前には最低バカ男の俺と、状況がわかっていないマミちゃんだけが残された。
――『よかったね、卓巳』
あのとき見た、葵の寂しげな笑顔を、俺はその後も何度か見ることになる。
言いたいことを飲み込むのは彼女の癖やった。
はっきりとなじってくれた方が、どれほど楽やったか。
でも、できへんねんな。葵は。
一見少し冷めた性格に思える葵の内側には、
実はとても繊細で、傷つきやすい心が隠れてたと思う。
他人を傷つけたとき、自分も一緒に傷ついてしまうような……
不器用なくらい優しい奴やった。
次の日、俺は教室に入ると、まっ先に葵の席に行った。
「おはよ、水野」
「……おはよう」
葵はいつも俺がしているように、机にうつ伏せでもたれていた。