【短】Another Platonic
「もう~。ほんまに泣いてへんのに!」
葵はよっぽど悔しかったのか、いつまでもブツブツぼやいてた。
「なんでわたしが泣かなアカンねん。ね、卓巳?」
「そうやな」
そう。たしかに葵は涙なんか流してなかったし、肩も震えていなかった。
でもな。
なぜか俺にも、あのとき葵が泣いてるみたいに見えてんな。
人に対して壁を作る葵の、
一瞬見せた、壁の内側。
可愛かった。
って言ったら、
意地っ張りなあいつは、きっと怒るやろな。
その週の日曜日、俺たちは約束どおり、ふたりで映画を観に行った。
クライマックスのシーンではなんと俺が号泣してしまい、しばらく葵にからかわれるハメになったんやけど。
映画のあとはサイゼでメシ食いながら、映画についてあーだこーだと語りまくり。
ちっともロマンチックじゃなかったけど、よく考えてみたらあれが、俺らの初デートやったんやな。