【短】Another Platonic
急に黙り込んだ横顔をのぞきこむ。
すると葵はサッと笑顔に戻り、話題を変えた。
「そうや、こんど私んちにおいでよ。
一緒にビデオ観よ」
「行く行く! いつにする?」
「いつでもいいよ。あ、でもしばらくはバイトが忙しいから、今月の後半かなあ」
後半、か。
……う~。遠いなあ。
でもそんなこと言うと寂しがり屋みたいでダサいから、ガマンして笑顔で答える。
「わかった。んじゃ俺、それまでに葵が好きそうなビデオ探しとくな」
恋すると、自分の中に新たな時計ができるみたいや。
それは現実の時間とは別のペースで時を刻む、自分だけの時計。
好きな人といるときはハイスピードで進むのに、
好きな人との約束を待つときは、なかなか秒針が進まへん。
……って、
こんなこと考える俺は乙女かっ!
ああぁ…マジでヤバイ。
マジで、葵が好き。
ようやく葵のバイトが落ち着いた2週間後。
俺はビデオを何本か持ってあいつんちに行った。
「何してんの? 入らへんの?」
妙に緊張して部屋の前で立ち止まっていると、葵のあきれた声がした。
いや、だってよ。
大好きな彼女の家、初めて行ったんやからやっぱ緊張するってばよ。