【短】Another Platonic
それはけっしてキレイな泣き顔ってわけじゃなかった。
鼻の頭が真っ赤やし、鼻水ズルズル。
唇はプルプル震えてるし。
でもな、なぜか俺には、その涙が純粋さの象徴に見えてんな。
映画そっちのけで葵ばっかり見ていると、さすがに気づかれてしまった。
葵はあわててティッシュで顔を押さえた。
「もう~っ、ジロジロ見んとってよ。バカにされてるみたいやん」
「は!? バカになんかしてへんわ。 ちゅーか、泣いてるお前は可愛いし!」
とっさに唇から滑り落ちた、“可愛い”って言葉。
自分がとんでもなく恥ずかしいことを口走ったのに気づき、俺はどっと汗をかく。
葵も、まさか俺の口からこんな言葉が出るなんて思ってへんかったらしく、
「何、言うてんの……」
と、ますますそっぽを向いてしまった。
「何って……俺の本心やんか。可愛いって思ったんやから、しゃーないやろ」
死ぬほどテレくさいけど、今さらあとには退けない。
「でも、そんなこと言うの、卓巳のキャラ違うやん」
「……っさいなあ」
俺は背中を向ける葵の体を、ぐっと引き寄せた。
「惚れた女のこと、可愛いって思わへん男がいるかよ」