【短】Another Platonic
「ほらっ、早く行こう、卓巳」
「えっ!? おいっ」
葵は後部座席に座ったまま地面を蹴り、自転車を進まそうとする。
そんな俺たちの様子を、不審そうに見る出勤途中のサラリーマン。
こんなとこ、知り合いに見つかったらマズいよなあ。
俺はとりあえず逃げるようにホテルの駐車場に入った。
「まったく……ラブホに自転車で来るやつがどこにいるねん」
「ここにいるやん」
適当に選んで入った部屋で、楽しそうに笑う葵。
俺はブツブツと文句をたれていたけど、別にそんなに怒ってたわけちゃうねん。
葵とこんな所に来るのなんか初めてで、何か話さないと緊張で死にそうだったんだ。
とにかく。冬休みの間に俺が感じてた不安は、これで消えた。
もしかして俺に飽きたんちゃうか?とか、他に男ができたんちゃうか?とか、そんなことばっかり考えてたから、これで一安心。
「始業式さぼっちゃったね」
相変わらず葵の表情は楽しそうだ。
「さぼらせたんは水野やろ」
「だって卓巳とふたりになりたかったもん」
いつになく積極的な葵が、俺のひざに乗ってくる。
パチン! と頭の中でスケベ心のはじける音がした。