【短】Another Platonic

以前、テレビで聞いたことがある。

人間はあまりにも辛い出来事に遭遇すると、防御本能がはたらいて記憶を封印してしまうことがあるって。


でもそんなの遠い世界のことやと思ってた。

俺には、ちっとも現実的じゃなかった。



「ねえ、卓巳。お願いやから続けて」


葵は俺の腕にしがみつき、涙を流しながら懇願する。

でも俺はもう、そんなことできる気分じゃなかった。


「ごめん。無理」


目をそらしてつぶやくと、葵の表情がこわばったのが、視界のはしにハッキリ映った。


「……私のこと、汚いって思うから?」


「違う、そんなん思うわけないやろ! お前をこれ以上傷つけたくないから、今は抱きたくないって言うてんねん」


「なんで卓巳に抱かれて私が傷つくんよっ!!」



涙に濡れて真っ赤に染まる、葵の目。

俺は息をのんだ。



「なんで……なんで?
卓巳は私の彼氏やろ? あいつとは違うやろ?

私は、あんなことのせいで卓巳に抱いてもらわれへんのは嫌や……。

お願い。大丈夫やって安心させてよ。
あんなの、どうってことないって証明させてよ……」



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