【短】Another Platonic
顔も知らないのになぜわかったんだろう、と自分でも不思議に思う。
でも、あいつを見た瞬間に胃の底から湧きあがってきた憎しみは、理屈じゃなくて。
通り過ぎていくその横顔から、俺は目をそらすことができへんかった。
ガラス越しに憎悪の視線が向けられていることも知らず、あいつは楽しそうに笑いながら歩いている。
タレ気味の目元……
その目に葵のどんな姿を映した?
細身のその体で、その腕で、葵をどんなに傷つけた?
なんで……
なんで、あいつは笑ってるねん。
葵は泣いてるのに。
苦しんでるのに。
なのになんで、あいつはのうのうと笑っていられるねん……!
「――卓巳~。何かいいのあった?」
後ろから葵の声が聞こえ、俺はハッとした。
「あ、いや、特に……。あっちの棚も見てみよっか」
近づいてくる葵を止めるように、俺は奥の棚の方を指さす。
葵をこっちに来させたくない。
あの男の姿が、見えなくなるまでは。
「ねー、卓巳も一緒に選ぼうよ」
「あぁ、うん」
「どれがいいかなあ。アクション? SF?」
ビデオの棚の前で適当に会話しながら、俺はひざが震えるのを止められなかった。
拳も、のども震えてた。
あまりにもデカすぎる怒りに、震えていたんだ。