【短】Another Platonic

善悪とか道徳とか、そんなのもう、どうでもよかった。


あの男と葵が同じ世界に生きていることが、許せなかった。



家族が寝静まった夜中。

ペンケースから取り出したカッターを上着のポケットに入れ、
足音を立てないように玄関に向かう。



――たしか、あの男の家は高台にあるって、前に葵が言ってた。

今から自転車で飛ばせば1時間くらいで着くやろう。



俺は玄関に座り、スニーカーに足を通した。

指が震えて、ひもがうまく結べなかった。



……俺、

こんな夜中に、
何をしようとしてるんや?


あの男の家を見つけ出して、
いったい何をしようと。



一瞬そんな冷静な声が頭の中でしたけれど、すぐに消えてしまった。



恐ろしいことをしようとしているのは、自分でもわかってる。

どれだけ憎くてもやってはいけないことがあるのも、わかってる。


そんなの、言われるまでもなく百も承知やねん。


でも――…




「卓巳」



心臓が止まるかと思った。

突然の声に振り向くと、暗い廊下にパジャマ姿の父さんが立っていた。


< 68 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop