【短】Another Platonic
善悪とか道徳とか、そんなのもう、どうでもよかった。
あの男と葵が同じ世界に生きていることが、許せなかった。
家族が寝静まった夜中。
ペンケースから取り出したカッターを上着のポケットに入れ、
足音を立てないように玄関に向かう。
――たしか、あの男の家は高台にあるって、前に葵が言ってた。
今から自転車で飛ばせば1時間くらいで着くやろう。
俺は玄関に座り、スニーカーに足を通した。
指が震えて、ひもがうまく結べなかった。
……俺、
こんな夜中に、
何をしようとしてるんや?
あの男の家を見つけ出して、
いったい何をしようと。
一瞬そんな冷静な声が頭の中でしたけれど、すぐに消えてしまった。
恐ろしいことをしようとしているのは、自分でもわかってる。
どれだけ憎くてもやってはいけないことがあるのも、わかってる。
そんなの、言われるまでもなく百も承知やねん。
でも――…
「卓巳」
心臓が止まるかと思った。
突然の声に振り向くと、暗い廊下にパジャマ姿の父さんが立っていた。