【短】Another Platonic
【12】ふたりの傷あと
夏休みがやってきた。
楽しかった昨年の夏を思い出すのが嫌で、俺は海に行く勇気もなかった。
早く夏が終われと思うけど、秋になったらまた秋の思い出が出てくるんやろう。
春には春の。冬には冬の。
思い出に囲まれてひとりで季節を越していく自信が、俺にはない。
せめて忙しくしていればあれこれ考えずにすむかと思い、この年の夏休みはバイトと勉強に明け暮れた。
母さんは「受験生がバイトなんかするな」って怒ったけど、そのくらい忙しい方が俺にはちょうどよかった。
そして、夏休みが終わりに近づいたころ――
「河本。お前よく頑張ってるから、今日はいいとこ連れてったるわ」
バイト先の運送屋の主任が、そんなことを言い出した。
「マジすか? ありがとうございます! ……で、いいとこって?」
主任はニヤッと笑う。
「風俗や。お前、行ったことないやろ?」
「えっ? でも俺……」
「ゴタゴタ言わんと、行くぞ」
乗り気じゃない俺の肩をつかみ、歩きだす主任。
自分が行きたいだけちゃうん?
でも断るのは悪いし、何より、ちょっとは暗い気分もまぎれるかもしれへん……。
そう思い、とりあえずついていくことにした。
そして俺はその場所で、
思いがけない人に再会する。