【短】Another Platonic

「ごめん……俺、辛いことを思い出させてるよな」


「ううん、私が話したくて話したんやから平気だよ」


「でも、ホンマは早く忘れたいやろ!? 今すぐひとつだけ願いが叶うとしたら、真っ先にその記憶を消すやろ?」


華岡は少し考えて、首を横に振る。



「ひとつだけの願いなら……
私はもう一度、内田くんと抱き合いたい」


「……」


「大好きな人と、ただ普通に抱き合いたい」



こんな――…

こんな想いを、きっと、葵も。



俺はこらえきれず、涙をこぼした。


華岡の手が、そっと俺の手の上に重なった。

すべて察しているような、
やさしい手。


温かくて
胸が苦しくなった。




「……いっぱい泣いていいよ。
延長料金、サービスしといたげるから」



そう言って笑った華岡は、

楽しかったあの頃の笑顔、
そのままで。









< 83 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop