睡恋─彩國演武─
〔弐〕灰色の街、白樹
〔弐〕灰色の街、白樹
街の中は、見る限りがやはり灰色だが、それでも幾人かの人の姿があった。
だが、皆は見るからに覇気がなく、蒼白い顔はまるで黄泉人のようだ。
「荒廃なんてものじゃない。こんな……」
この街だけが餓鬼の住み処のようで、ぞっとする。
そのうち、道端に座っていた粗末な身なりの老人が、千霧に向かって低い声で呟いた。
「見慣れん顔じゃ。その高貴な身なり、贄(にえ)になりにきたのか」
老人の声に気付き、周囲の村人が集まってくる。
「贄……贄……」
「贄だ……」
一斉に『贄』と連呼し始めた村人たちに悪寒が走った瞬間。
「千霧様……!」
鈍い音と、身体が地面に擦れる衝撃。
「呉羽!?」
覆い被さっている呉羽の額からは、血が流れていて。
「贄を、城へ──」
鈍い痛みと共に、意識が薄れていく。
目が霞む中、隣に倒れている呉羽の背中が遠ざかった。