睡恋─彩國演武─
*
目が覚めると、天蓋(てんがい)付きの寝台に呉羽と二人、寝かされていた。
呉羽の方は、まだ目覚めていない。
動くと、頭が痛んだ。
相当な打撃を受けたのだろう。
隙間から覗けば、豪奢で華美な部屋が映し出された。
外とは違い、ちゃんと色がある。
まだ状況が呑み込めず、千霧は天蓋を持ち上げて寝台から降りると、おぼつかない足取りで戸口へ向かった。
戸に手をかけた瞬間──…
トン、トン
戸を叩かれ、思わず一歩下がって身構える。
戸がゆっくりと開き、黒髪の少年が顔を覗かせた。
召し使いの者だろうか。
身に纏った随分と粗末な服に対して、真っ直ぐで美しい、青光するほど黒い髪が首の横で揺れた。
歳は十二、十三といったところか。
「……良かった。お目覚めですね。これからお二人のお世話をさせて頂きます、由良(ゆら)と申します」
少年は丁寧に一礼して微笑んだが、奥で横たわる呉羽に気付くと眉を寄せた。
それから懐を探ると、小さな巾着袋を取り出すと、千霧に差し出す。
「気付け薬です。彼にこれを」
差し出された袋を受け取り、由良を見る。
「ありがとう……」
「いえ、お気になさらないで下さい。それより、傷の手当てをいたしませんと。……えっと」
由良が何か言いたげに千霧を見つめる。
千霧は彼の言いたい事を察し、微笑みかけた。
「私は千霧で、そこで寝ているのは呉羽。よろしく、由良」
「千霧様……では、その椅子に腰掛けて下さい。傷を見ますから」