睡恋─彩國演武─
蛇憑きとは、文字通り人が蛇にとり憑かれた状態を指す。
蛇は執念深く、憑かれれば質が悪いとされている。
でも、なぜ、王が蛇憑きに──…?
考え込んでいると、牢と廊下を繋ぐ扉の鍵が音をたてた。
「……食事をお持ちしました」
入って来たのは、先まで共にいた少年。
彼は外に誰も居ないことを確認すると、扉の鍵をもう一度締めた。
「由良!どうして……」
「この剣をお返しに参りました。大事なものとお見受けしたので……」
由良が持っていたのは食事ではなく、布で丁寧にくるまれた剣。
それを格子の隙間から差し出す。
「月魂……」
千霧の手に渡ると、ぼんやりと剣が蒼い光を放った。
「今は衛兵に眠ってもらっています。この牢は外に繋がっていますから、都合が良い」
由良からは微かに、香の薫りが漂っていた。
手の内で鍵を鳴らしながら、千霧の牢の鍵を外し、自らそこへ入る。
「──ここの格子、少し力を入れれば簡単に壊れるんです」
牢の中を照らす唯一の窓を見上げると、由良は月魂のくるまっていた布を格子に巻き付けた。
「後はこれを捻れば簡単に壊れます。千霧様、どうか今すぐ此処からお逃げ下さい」
逃げろ、由良はそう言っている。
でも。
「……駄目だよ。呉羽を置いては行くことはできない」