睡恋─彩國演武─
呉羽が此処に居たとしたら、確実に「逃げろ」と言うだろう。
そんな事はわかっている。
それでも。
「私には呉羽が必要だ。助けなければ……」
月魂が、千霧の意思に共鳴するように光りだす。
「ですがっ!ですが貴方の身まで危うくなるのですよ──!?」
「……それでも良い。私は呉羽と一緒でなければ、此処からは出ない」
由良は俯いて唇を結んだ。
だが次の瞬間、決心したように拳を握ると、顔をあげた。
「俺もご助力します」
張り詰めた空気の中に凛とした声が木霊する。
「何故?貴方まで危険を侵すことは……」
「いえ、実は俺にもやるべき事があるんです。千霧様は呉羽様を助けるのが目的。俺は、俺の目的の為に、貴方の力になります」
由良は“自分の目的の為に千霧を助ける”という。
彼が何を考えているのかまでは解らない。
だが今の千霧は躊躇などしていられなかった。
「ありがとう。貴方の力を、私に貸して」
互いの心の底が見えない口約。
牢の外からは、闇を連れてくる冷たい風が入り込み、二人の髪を揺らした。