睡恋─彩國演武─

確かに彼の唇は、そう綴っていた。

信じられなかった。

人に優しい由良が、そう口にした事実を、受け止めることができない。

由良は自嘲気味に、少しだけ口元を歪める。


「……俺の、道ですから」


言い切られてしまえば、千霧が口を挟むことなど出来ない。


「───失礼、します」


由良は千霧の顔を見ずに、部屋を出ていった。


「由良──…」


一人残った部屋の中で、蝋燭の小さな灯りだけが妖しく揺らめいていた。





「由良──…」


揺らぐ灯火の中で、二つの影が融け合った。

まるで一人のように。


「もうすぐ、終わるから」


黒い髪が、赤みを帯びて照らされる。




「君は──?」


対照的な銀の髪の男は、落ち着いた声で尋ねた。

影が、ゆらりと踊る。






「僕は──…」





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