睡恋─彩國演武─
*
「王にはそうやって言われましたけど──」
納得のいかない表情で、ため息をつく由良と千霧。
「──まったくだ。白王って本当に……」
呉羽が困ったように笑いながら、言葉を繋げる。
「色惚け(いろぼけ)……ですね」
「そう!妾が多ければ子ができるって考えがまずおかしいんだ。白王の場合は女に目が眩みすぎている」
「千霧様の言う通りです!王子が出ていくのも頷けますね」
千霧達は相当に腹を立てているらしく、呉羽は黙って聞いているしかなかった。
あの後、白王を城まで送り届けてからすぐに白樹を発った。
あの場に居ると、まだ残っている脩蛇の妖気で、千霧に悪影響が出ると呉羽が判断したからだ。
「……そういえば、空良と由良って、いつから入れ替わっていたの?」
「白王と初めに対面した時ですよ。千霧様だけ連れていかれて、その後、由良がまともに術をかけられてしまったんです」
「……そうなんだ。じゃあ、あの時──」
千霧の居る牢へと、剣を返しに来た時。
あの時、空良は千霧に“窓の格子を壊して逃げろ”と言った。
だが、千霧は拒んだ。
呉羽と一緒でなければ逃げることはできない、と。
「空良は私を試していた──?」
もし一人で逃げようとしていたなら。
少しでも戸惑ったなら。
きっと空良は、千霧に由良を任せようとはしなかっただろう。