睡恋─彩國演武─
〔弐〕睡蓮の唄
〔弐〕睡蓮の唄
「千霧さま、起きてくださいませ」
部屋中に響き渡る、聞き慣れた少女の高い声。
「ん……」
重い体を起こすと、すでに部屋の中には陽が射していて、眩しさを感じた。
沙羅が着替えを両手に抱えて見下ろしていた。
「朝帰りなんて珍しいですわね。湯浴みもせずに寝台に倒れこんで……。どうです、これからお身体を清めにられては?」
沙羅はクスクスと笑いながら、着替えを寝台に置くと窓を開けた。
肌に触れる風が気持ちいい。
「──お言葉に甘えて、そうするよ」
手足を確認すれば、擦り傷と泥だらけで、少し恥ずかしくなった。
あの後、呉羽を王宮に連れて帰って手当てしてからの記憶がない。
「沙羅、呉羽は?」
不安になって、問わずにいられない。
「呉羽?……あぁ、あの旅の方ですか?それなら、まだ客間にいると思いますわ」
その一言を聞いて、千霧はほっとした。
もしかしたら、昨晩のことが全て夢で、朝起きたら彼が消えてしまうのではないかと内心不安だったのだ。
でも、呉羽はちゃんとここにいる。
それを確かめられたことだけで、大きな安心感があった。