睡恋─彩國演武─
まだあまり言葉を交わしていないから、会って聞きたいことが山ほどある。
「あ、千霧さま」
思い出したように沙羅が振り向いた。
「なに?」
「今日は庭の睡蓮がとっても綺麗ですの。後でご覧になってみて下さいな」
花のように笑う彼女は本当に愛らしい。
そんな彼女のことを狙う者は宮中にも大勢いるが、なぜか彼女自身は全く興味を示さない。
そうして泣かせた男の数は計り知れないだろう。
彼女を見ていると、ときに羨ましく思う。
彼女なら、女としての幸せを手に入れられる。
普通に恋愛をして、普通に結婚をして。
無性の身ではけして手に入れられないもの。
男としても、女としても、不完全だから。
女として男を愛することも、男として女を愛することも、自分には考えられない。
「……うん」
小さく返事を返すと、沙羅は満足気に大きく頷いて見せた。