睡恋─彩國演武─
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湯浴みを済ませ、服装を整えてから足早に呉羽のいる客間に向かった。
千霧の部屋から客間までは少し距離があり、中庭の渡り廊下を通らなければならない。
ふと見れば、橋の上に一人佇む影が揺れた。
銀色の髪は異質で、やはり目立つ。
駆け寄ると、呉羽は黙ったまま指をさした。
目で追えば、池に見事に咲き誇った睡蓮。
沙羅の言った通り、その眺めは素晴らしかった。
「千霧様に似ていますよね。この花」
呉羽は水面の睡蓮をじっと見つめていた。
「……どうしてそう思う?」
「凛として、それでいて美しいですから」
小さく微笑む彼の瞳は、睡蓮ではなく、しっかりと千霧を捉えていた。
その瞳があまりにも澄んでいて、真っ直ぐ受け止められずに思わず目をそらした。
……違う。
美しくなんかない。
頭ではわかっているのに、呉羽に言われてしまうと簡単には否定できない自分がいた。
「では、呉羽は……」
無意識に口が動いていた。
何か言葉にしようと、心ばかりが焦っている。
「水、のように思う……」
「水ですか?」
その言葉が意外だったのか、呉羽は目を丸くしていた。