睡恋─彩國演武─


「睡蓮は水に浮いてるからこそ、ああして美しく咲き誇るというもの。水がなければ花開くこともない」

「それは……」

「呉羽がいなければ、今頃私の命はなかっただろうから。私は貴方という水に生かされたんだ」

苦笑いをすると、呉羽も少し微笑んだ。

少しの沈黙の後、千霧は遠慮がちに切り出した。


「……お願いがあるのだけど」


急に変わった千霧の声色から、呉羽も緊張を感じる。

「これからもずっと、朱陽に居てはくれないか?呉羽がいれば、何より心強いから……私の傍に居て欲しい」

こんなに誰かを求めたことなんてなかった。

一人で十分。

誰の助力もいらない。

生まれたときから常に独りだったお陰で、孤独には慣れていたはずだったのに。

すがるように見つめる千霧に、呉羽は優しく微笑んだ。


「もとよりそのつもりで此処まで来たのです。喜んで貴方にお仕え致しますよ」

そう言うと彼は千霧の手をとった。

ほんの一瞬の出来事に、千霧は大きく二回まばたきをして、状況を把握すると真っ赤になった。


「……く、呉羽っ!」


恥ずかしいのと驚きで思わず大きな声を出してしまう。

呉羽の唇の感触が、熱が、手の甲から直に伝わってくる。


───契りの、口付け。



「これからは、千霧様だけに忠誠を誓います」

「呉羽……」


自然と気が緩んで、身体の力が抜ける。

皇子として相応しくない事だとわかっていても、呉羽の前だと弱くなってしまう。

それは、千霧にとっての『変化』だった。


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