睡恋─彩國演武─
「あ……呉羽の話を聞くために来たのに、私ばかり話をしてしまったね」
謝るが、呉羽の方はさして気にしていない様子だった。
「いえ。千霧様が嬉しそうに話しておられると、私も嬉しくなりますゆえ」
……また。
呉羽は本当に、恥ずかしくなることばかり言う。
それで本人に他意がないから余計にタチがわるい。
「千霧さまー!」
遠くで沙羅の声が聞こえて、振り返る。
「紫蓮さまと皇が、明日お戻りになるそうですわー!」
書簡を手にした少女は、ひらひらと衣をはためかせながら小走りで千霧に駆け寄った。
「紫蓮……第一皇子と皇のことですか」
「父様が……」
千霧は唇を噛み締めた。
皇が戻れば、また監視されて自由のきかない生活になる。
「我が父ながら、私を畏れる父……か」
行き場のない哀しみと憤りを、どうすることもできない自分がいた。
考え事がしたいと沙羅と呉羽に笑って告げ、渡り廊下を早足で歩く。