睡恋─彩國演武─
〔参〕異形の嘆き
〔参〕異形の嘆き
遠くで馬のひづめの音が聞こえる。
それだけで鼓動が速くなり、落ち着かない。
皇の出迎えの為、沙羅が千霧の身支度を正装に整えていた。
朱陽の聖なる色、『朱色』の羽織りに、緋の袴を穿き、目尻と唇に朱の紅をさす。
「よく似合ってますわ」
沙羅は満足気に両手を合わせながら笑った。
台座から鏡を取り出して、千霧に手渡す。
「とっても綺麗ですのよ。ご自分で御覧になってみてくださいな」
押しの強い沙羅に言われ、断ることもできずに恐る恐る鏡を覗いた。
もともと白い肌に紅がよく映えている。
そういえば、母はあの日も正装を着ていた。
最後まで后妃という誇りを捨てなかったのだ、あの人は。
鏡の中に映ったその顔は、『母』の面影を強く残している。
けれど、どこにも『父』の面影はなかった。
それがひどく、哀しく思える。