睡恋─彩國演武─
*
気分転換に中庭に出ると、昨日咲き誇っていた睡蓮の花は閉じていた。
それだけで、風景は一変して寂しいものになる。
「千霧さま、そろそろお出迎えを……」
侍女の一人が機械的に頭を下げた。
「……わかった。呉羽も呼んでおいて。すぐに行くから」
「かしこまりました」
侍女は一礼すると、呉羽の部屋へ向かって行った。
その後、心配して捜しに来た沙羅に半ば強引に門前へと連れてこられた。
「千霧さま、気が進まないのでしょう?」
先程から虚ろな千霧を見かね、沙羅が問いかける。
それでも、返事は返ってこない。
「千霧さま?」
顔を覗くと、心なしか蒼白く、身体が小さく震えていた。
「……」
千霧の中で、大きな塊がとぐろを巻いていた。
恐怖、不安などの巨大な負の存在。