睡恋─彩國演武─
自我を見失うほどに、父との真正面からの対面は、千霧にとって厳しすぎる運命との対峙だった。
たまらず沙羅は、両腕で強く千霧の身体を抱き締めた。
落ち込んだ自分に、千霧がそうして、勇気付けてくれたように。
そうすれば、またいつもの千霧に戻ると思った。
けれど、返ってきた反応は、予想とは全く違うもので。
“王宮の中に、あなたの味方はいない”
それは一瞬の出来事。
パシッと軽快な音が響いて、沙羅は自分の頬が熱を帯びるのを感じた。
同時に、じんと鈍い痛みが襲ってきて、思わず瞳が潤んだ。
「……え?」
戸惑った声を発したのは、沙羅ではなく千霧の方だった。
(──どうして、沙羅が泣いている?私は──…)
じんとしている右手を見れば、赤くなっている。
千霧が沙羅を叩いたのは明確だった。
「──あ……あぁ……」
わからない。
自分は何をやっているのだろうか。
周囲の怯えた視線が、千霧を更に追い込んでいた。