睡恋─彩國演武─
そして集まって来た他の召し使い達に向き直ると、辺りに言い放った。
「千霧さまは皇の血を引く皇子。それに偽りはないわ。陰口を言うのなら、皇や紫蓮さまに直接お言いなさい!」
皇や紫蓮から一目置かれる彼女の言葉には威厳がある。
そんな彼女に逆らおうなどという無謀な者は誰一人いなかった。
蜘蛛の子を散らすように、召し使い達が各々の仕事に戻ると、門前にはまた静寂が戻ってきた。
「千霧さま……申し訳ございません。わたくしのせいですわ」
沙羅は大粒の涙を目に溜めて、掠れた声で精一杯謝罪をした。
「泣かないで……。悪いのは私の方だから……沙羅……」
千霧は呉羽に身体を預けながらも、思考が鈍くなった頭で必死に言葉をたぐりよせた。
「沙羅さん、後は私にお任せください」
呉羽は千霧の痛々しく不安定な様子を見かね、口を挟んだ。
「そう……ですわね。どうか、よろしくお願いしますわ」
「……はい。ご安心を」
沙羅は頷くと何度も振り返りながら宮殿へと戻っていった。