睡恋─彩國演武─
千霧に目をやると、先程よりも少し冷静さを取り戻しているようで、呼吸も整っていた。
「加減はどうですか?」
「……大事ないよ」
平静を装う姿が、逆に痛々しく感じられた。
「本当は怖いんだ。父親に会うだけなのに……こんなに震えてる」
千霧は小さな自身の掌を呉羽の掌へと重ねた。
小さな震動が伝わってくる。
「弱い人間だね」
少しだけ、千霧は微笑んだ。
いつもの明るい笑顔ではなく、自分自身に言い聞かせるような、無理矢理の笑顔。
「千──…」
呉羽はその小さな肩に手を伸ばそうとし、寸前でやめた。
かける言葉を、見つけられない。
見つけることが、できない。
「開門!!皇と紫蓮様のご帰還──」
直後響いた門番の声に、千霧は衣を直すと門前へ歩み寄った。
それは先程までの千霧と違う、威厳のある『皇』の血を引く者の姿。
目の前に、何千という騎馬が立ちふさがって、圧倒的な威圧感を醸し出していた。
「お帰りなさいませ」
「千霧か……」
紫劉は馬から降りると、一言「気に入らん」と呟いた。