睡恋─彩國演武─

その一言に、千霧の額から一気に冷や汗が流れる。

「……私の居ぬ間に、何があった?」

紫劉は目を細める。

その表情に、呉羽は小さく反応した。

(この方、見抜いておられるのか──?)

千霧はすぐに首を横に振った。


「皇の心配には及びません……使いの者達が揉めただけです」

親子の会話のはず。

しかし、所々に空白を残して、空虚だ。

お互いの本心がまるで見えていない。

親子というには、欠陥を感じてしまう。


「父上、僕にも挨拶させてください。千霧とは久しぶりに顔を合わせるんですから」


間に割り込むように口を挟んだのは、紫蓮だった。

千霧と皇の不仲をよく知る数少ない人間の一人。


「兄様……!いけません、兄様にご迷惑が──」


身を案じて、小声で制止するが。

紫蓮の行動は、いくら親子といえど皇の前で強引なものだった。

いくら第一皇子でも、皇を不快にさせればどうなるかわからない。

「いいから。千霧は黙ってなさい」

普段穏やかな兄に強い口調で言われると、反論などできなくなってしまう。

「……そうか。好きにしなさい」

皇は気にする様子もなく、身をひるがえすと宮殿の中へ入っていった。

< 47 / 332 >

この作品をシェア

pagetop