睡恋─彩國演武─
その一言に、千霧の額から一気に冷や汗が流れる。
「……私の居ぬ間に、何があった?」
紫劉は目を細める。
その表情に、呉羽は小さく反応した。
(この方、見抜いておられるのか──?)
千霧はすぐに首を横に振った。
「皇の心配には及びません……使いの者達が揉めただけです」
親子の会話のはず。
しかし、所々に空白を残して、空虚だ。
お互いの本心がまるで見えていない。
親子というには、欠陥を感じてしまう。
「父上、僕にも挨拶させてください。千霧とは久しぶりに顔を合わせるんですから」
間に割り込むように口を挟んだのは、紫蓮だった。
千霧と皇の不仲をよく知る数少ない人間の一人。
「兄様……!いけません、兄様にご迷惑が──」
身を案じて、小声で制止するが。
紫蓮の行動は、いくら親子といえど皇の前で強引なものだった。
いくら第一皇子でも、皇を不快にさせればどうなるかわからない。
「いいから。千霧は黙ってなさい」
普段穏やかな兄に強い口調で言われると、反論などできなくなってしまう。
「……そうか。好きにしなさい」
皇は気にする様子もなく、身をひるがえすと宮殿の中へ入っていった。