睡恋─彩國演武─
沙羅はそんな千霧の後ろ姿をじっと見つめていたが、その姿が闇に消えてしまうと涙を流し、初めて声をあげて泣いた。
「泣かないと決めたのに……っ!わたくし……わたくし……!」
届かないと知りながら、なおも名を叫び続ける。
風に乗り、もしも届くなら、どうかあの人に伝えて欲しい。
いつでも無事を祈っていることを。
「千霧は、行ったのか……?」
「ええ。……本当によろしかったのですか?」
青年の問いに、彼は何も答えず、頷いた。
彼と千霧は、やはり似ている。
自分を押し殺すことに精一杯になる、臆病なのに、強がりで。
──これほど似た親子が、他にいるだろうか?
「千霧……」
皇は、静かに涙を流した。
けして声をあげないように。
誰にも悟られぬように。
紫蓮が見守る中、涙を流し続けた。