深紅の花に姫君《改装版》
「ただ、まだ知らぬようだな。自分の命を賭けて守りたい、かけがえの無い想いを」
ケナン王の瞳は、遠くを見つめていた。
まるで、ここには存在しない、かけがえの無い存在を思い出しているようだ。
「俺としても、それに気付ける良い機会だと思ってる。それに、レインなら、姫さんの相談相手にもなれるだろうよ。あれでも面倒見が良い奴だからな」
「そうか、スヴェンが言うならそうなのだろう。私は、守りきる事が出来んかった」
ケナン王はアスラーナを失った日のことを思い出す。
あの頃は、アルバンテール国もこんなに平和でなく、他国同士での戦争、そしてそれによる被害から民たちの怒りを買い内乱が多く起きていた。そして、その戦の最中、私は究極の選択を迫られた。
戦地に赴いていた私は、ヴァンパイアに城を襲われた事を知り、悩んでしまった。ここで戦い、国や民を守るのか、城へ戻り、妻と娘を守るのか………
「国と最愛の女、そして我が子を天秤にかけ、私は国を選んでしまった。そこから、私は騎士では無くなり、王となってしまったのだ。スイランには、スイランだけを守り、愛す存在が傍にいてくれればと思うのだ。私には、もうそれが出来んからな」
大切なモノが多いほど、この手から滑り落ちていく。
人は全能ではないのだ、限りある力で、限りあるモノしか守れない。
だからこそ、選択をする。