深紅の花に姫君《改装版》
「ずっと不思議だった。誰よりも国を愛していた母様が、ヴラドを説得しようとしたこと…」
「な、なんだよ!!近づくな!!!」
声を荒げたジルドに私は構わず歩みを進める。
「でも、簡単な事だった。私にとって、ジルドが他人に思えないように、母様にとってヴァンパイアも、同じ人のように感じていたんだって」
「ジルド!!しっかりしろ、早くソレを捕まえろ!!」
遠くからセンリが怒鳴る。そこにすかさずレインが斬り込んだ。
「邪魔すんな、俺だけ見てろ、ヴァンパイア!!!」
ーザシュッ!!!!、キーンッ!!!
固い爪と金属がぶつかる音が響き渡る。
レイン、ありがとう………。私の気持ち、尊重してくれたんだよね。
私は心の中でお礼を言って、ジルドを見つめる。
「あなたが私に話してくれた過去が、私の心を変えてくれた」
母様を殺したヴラドを憎むのではなく、解りあおうとすることで、世界を変えられるかもしれない。
そんな可能性に気づかせてくれた。
「母様はきっと、最後の瞬間まで諦めてはいなかった。だから私も、母様の思い、あなたが教えてくれた可能性、私の信じる道を進むわ」
私は、一つに束ねた髪をほどく。そして、剣を捨てた。
すでに、ジルドとの距離は一歩で届く距離。ジルドへ向けて、右手を差し出す。
「アルバンテール、第一王女、スイラン・アルバンテールの名に、そして薔薇の刻印に誓い、共に歩み行く世界を創ることを誓うわ」
強気に笑って、誰よりも王女らしく。そして、偽りなき姿で、誓いたかった。
「ええ!スイラン王子、女!?」
ジェイドが驚きの声をあげる。
「スイラン姫らしいなぁ、がはは!!」
「本当に、お前カッコ良すぎだろ」
スヴェンとレインの暖かい眼差しが、私の背中を押すように、勇気をくれた。