深紅の花に姫君《改装版》


⭐Suiran side⭐


視察から戻ると気づけばすっかりお月様が顔を出す時刻になっていた。


部屋に戻り、窓を開け放つ。
そこからバルコニーへと出ると、あの銀髪の少年と会った舞踏会の夜を思い出した。


「良い月夜………」


風が髪をさらい、それがくすぐったくて耳に髪をかける。


「月の満ち欠けを何度見れば、僕は本当の私になれるんだろう………」


女として生きたいとは言わない。
だけど、自分を偽る生き方は嫌い。


母様はよく言ってた。
『自分に誇りを持ち、心を強く在りなさい』と……


偽りの姿で国民の前に立つのは、正しい事なの?
私の身を守る事だとしても、いつかは真実を知らせなければいけない。


その時の、国民の反応が怖い。
裏切り者だと冷たい目を向けられたら……?



それに、偽った自分でいると、私は一体誰なのか、わからなくなる。本当の私を見失ってしまう。


「私は、私でいたいの、母様……」


それが出来ない事は分かってる。
だから、だからね………



一人でいるときだけは、本当の私に戻ってもいいよね?





















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