深紅の花に姫君《改装版》
ーコンコンッ
考え耽っていると、不意に部屋がノックされた。
あれ、今日、来客の用事なんてあった?
うーんと、今日の予定は確か、剣術稽古、新しく出来る市場の視察と、領主との晩餐会に………
もう!ありすぎて分からないよ!!
「はい、どちら様で?」
「!!?あ、女性の部屋でしたか、間違えました!!」
私の声を聞いた扉の向こうの誰かは、慌てたように声を上げた。
あ、素で返事しちゃった!?
いけない、完全に気が抜けてた!!
「いや、スイラン第一王子の部屋で間違いないよ。入ってくれ」
少し低めに、王子様である自分へと戻る。
私は扉を見つめた。
「失礼します!」
ーガチャン
部屋に入ってきたのは、銀髪、銀色の瞳の見覚えのある少年だった。あの時とは違って、騎士団の制服に身を包んでいる。
「あ、お前っ!!」
相手も気づいたのか、私を見て驚いていた。
騎士、あぁ!!
そういえば、父様が側近をつけるって言ってたっけ?
まさかそれが今日の話だったなんて………
「レイン、まさか君が僕の側近だったなんて、びっくりだよ」
そうか、これで私は………
この人にも、偽りの姿でしか、会えなくなるんだ……
「僕は、スイラン・アルバンテール。アルバンテール国の第一王子だよ、よろしくね」
私は、笑えてる?
差し出したこの右手は、震えていないかな?
心が、悲しくて痛んで、軋む。
私はまた、私でいれる場所を失うんだ。
出来れば、もう一度王子じゃない私自身で会いたかった。