深紅の花に姫君《改装版》



『どんな事があっても、私の大切なこのアルバンテールを守ってってお願いしたの。だから、私達も、戦わなくてはいけないわ』


剣も、人並みに上手いだけの女に出来る事は限られていた。それでも、母様は最後まで諦めていなかったのだと思う。


強い人だと思った。
私も、そうなりたいと思った。



『もうじき、スヴェンも来るわ。だから、もう少しの辛抱よ』



剣を握りしめて私に笑いかける母様。それが鮮明に私の中に残ってる。



『薔薇の姫、探しましたよ』

『もう、ここまで………。人の言葉を話すのね、一体何人の人間を喰らったのかしら』


漆黒の長髪に紅の瞳が、母様を見つめる。それは、まるで獲物を狙う猛獣だった。



『私は純血種ですよ』

『何故人を喰らうの?共に生きていく道を選ぼうとしないの?同じ星、世界に生きているというのに……』


純血種は混血よりも遥かに強い力をもつ。絶望的なこの状況でも、母様は凛として弱さを見せなかった。


『共に生きる?食糧でしかない人間と生きるなんて馬鹿らしい。あぁ、飼育するのであれば、話は別ですが』


飼育………?
飼育だなんて、人を人となんて思ってないんだ。



『馬鹿らしい?私はそうは思わないわ。互いを知れば、きっと……』

『興味ありませんね。大人しくその血を寄越しなさい』


ヴァンパイアは母様に飛びかかり、その首もとに牙を立てる。


止めて…
そう言おうとしたのに、声が出なかった。


怖くて、怖くて仕方なかったのだ。




















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