深紅の花に姫君《改装版》
『逃げなさい!スイラン!!』
その声が、私を正気に戻す。
母様を、助けなきゃ………
なのに、どうして体が動かないの!!
足に力が入らない………
目の前で、手を広げ、私を隠そうとするお母様に他の混血のヴァンパイアまでもが喰らいつく。
『愛してる、スイラン……ケナン……』
その言葉を最後に、母様は、動かなくなった。動かなくなった母様をヴァンパイア達が貪っていく。
吐き気がした。
嘔吐する私に、純血種のヴァンパイアが口元を母様の血に染め、ニタリと笑いかけてきた。
今度はお前だと、言われたようで、呼吸が出来なくなる。
苦しい………怖いっ!!
母様……母様っ………どうして動かないの?
スイランって呼んでよ!!
もう一回笑いかけてよ………
母様がいないと、私………
何もできないんだよ………
『さて、あなたも頂くとしますか……』
ほとんど骨と皮だけになった母様を置いて、ゆったりと私に近づいてくるヴァンパイア。
もう、動けなかった。
私は、この時、生きることを諦めてしまったのかもしれない。
喪失感と悲しみで何も考えられなくて、早く楽になりたかった。
『姫から離れろ!!ヴァンパイアめ!!』
ーブンッ!!!
『グハァッ!!!』
私に手を伸ばしたヴァンパイアが、急に何かに斬り倒された。そして、私に誰かが手を差し出す。
それを見た瞬間、涙が流れた。
それこそが、団長となる前のスヴェンだった。