ひめごと。
そんな遊郭の中でも、花街(はなまち)という廓(くるわ)に、ひとりの娼妓がおりました。
名は春菊(しゅんぎく)。
見目美しい彼女は、色白で細く、流れるような艶やかな黒髪は腰まであり、紅をささずとも赤くふっくらとした唇と大きな二重の目が印象的な、愛らしい姿をしておりました。
彼女の歳は十七。
もうとっくに春を売ってもいい年頃ではございますが、けれど彼女は水揚げもまだ済ませていない新造でございました。
というのも、この花街にやって来た当初から栄養失調で身体をこわし、倒れてしまったからでございます。
それから少しずつ体調はよくなってきているものの、けれどまだ完全には回復しておりません。
かといって、春菊の容姿は誰しもが目を引く容姿をしており、楼主としては彼女を解放するわけにもいきませんでした。
そして下された結論は、無理矢理水揚げをしてしまおうという春菊にとって、もっとも残酷なものでございました。
このお話は、そんな場面からはじまります。