ひめごと。
「今日の午後、母が来たそうだね?」
朱に染まった顔を隠そうと、俯いている春菊に、谷嶋は訊ねた。
春菊の身体が、びくんと小さく震えた。
「春菊?」
「私は……捨てられるの? 匡也さんは、私をお捨てになる? お母上様がおっしゃられておりました。近々、匡也様は奥さまを……迎えられると……」
大きな目からは、みるみるうちに涙が溢れ、漆黒の美しい瞳が濡れていく……。
先ほど、谷嶋はたしかに春菊が好きだとそう伝えたはずなのに、彼女は自分を捨てるのかと訊ねてくる。
(そんなこと、誰がするか)
「母から縁談の話を聞いたんだね? だが、その縁談はすでに断っているんだよ」
「ほんと、う?」
春菊は潤む瞳から雫を落とし、一度は逸れた視線を重ねた。
それは谷嶋の言ったそれが真実なのかを知るためだ。