ひめごと。
「ああ、愛おしい君がいるのに、他の女性に手が出せるほど俺は器用じゃない」
春菊を見つめる真っ直ぐな目は、医術を施す時と変わらなかった。
(嘘じゃない……)
そう実感すると、胸が高鳴り、悲しみを抱えた心臓はふたたび喜びで鼓動する。
「夢みたい……」
だって、まさか同じ想いだったとは考えられなかった。谷嶋は立派な医師で、しかもある立派な屋敷のお抱え医師になることも決まっていると聞かされた。
自分とは立場が違いすぎる彼。
それなのに、彼は春菊がいいと言ってくれる。
(天にも昇る気持ちって、きっとこういうことなのかもしれない……)
「可愛い春菊、君は俺のものだ。誰にも渡さない」
谷嶋に告げられて、春菊の小さな胸が高鳴った。
「さあ、今日はもう寝なさい。俺も側にいるから」
谷嶋は、褥(しとね)の上に春菊を横たわらせると、言葉どおり、彼も隣に寄り添った。