ひめごと。
蕣―あさがお―
朝は生きている限り、必ずやってくる。
春菊は、閉じた瞼の裏に明るい光が差し込み、目を開けた。
すると、縁側に続く真っ白い障子に、部屋を隔てるための麩(ふすま)が見えた。
十畳もあるここは、ひとりで生活するには広すぎる。
この部屋は、春菊が大好きなあの人に身請けされて二週間、ずっと見続けている景色だった。
ただひとりきりで……。
いつもの日常であるならば、春菊はひとりで迎える朝を寂しいと思うはず。それなのに、今日はどこか気持ちが清々しい。これはいったいどういうことだろうか。
春菊は考えるものの、それでもその気持ちに思い当たるような節もなく、気のせいだと思い直した。
だって、病弱な立場はなんら変わらない……。
今朝方、春菊はとても幸せな夢を見た。ずっと想い続けていた、谷嶋 匡也(やじま きょうや)に愛を告げられるという夢を――……。