ひめごと。



「春菊様、お外はとてもいい天気ですよ?」

 擦れる音と共に、障子がゆっくりと開くと、少女らしい明るい声がそこから聞こえる。彼女は春菊の世話をするためだけに雇われた、侍女のハルだ。


 ハルは、細身で色白なのにとても働き者だった。後ろに束ねられた漆黒の髪がくりっとした目を強調させて、小さな顔に小鼻がちょこんと乗り、とても可愛らしい元気な娘だ。

 春菊は思う。きっと谷嶋は、こんな女性が好きなんだろうと……。

 自分にはない、可愛らしい女性と所帯を持つのだ。

 そう思うと、春菊の目から、また新しい涙が込み上げてくる。



「どうかなさったんですか!?」


 褥の上でうずくまり、泣いている春菊をすぐさま見つけた彼女は、大きな目をいっそう大きくさせ、自分を見下ろしていた。


「旦那様!! 旦那様!!」

 そして、小さな唇を開けた彼女は、細い身体のどこでそんな声が出せるのかというくらいの大きい声を出し、この屋敷の主人である彼を呼ぶ。


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