ひめごと。
ひめごと。





「何を言っているんです!? 彼女にはまだ無理です!! 無茶をさせればまた倒れますよ!?」


「俺は楼主(ろうしゅ)。つまりはこの遊郭のオーナーだ。いくら医者といえども、お前に指図を受けるいわれはない」

 楼主の部屋の前。

 言い争う二人の内一人はもちろん雇い主で、説得しているのは春菊を診てくれている、医師の谷嶋 匡也(やじま きょうや)である。


 二人に御茶を汲みにやって来た春菊は麩(ふすま)を開けようか開けまいかと迷っていた。


「アレをどうしようが俺に主導権がある!」

「しかし!!」

「そこまで言うなら、お前がアレを身請けするか? 今までお前に渡した診察料と身請け代を上乗せして支払ってくれるか? できもしないのに軽口を叩くな、部外者風情が!!」


 いつもなら、それで終わる言い合い。だから春菊は、「失礼します」と一言添えて麩を開けた。


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