ひめごと。
それがいい。
春菊は、そう心に決めて、ふたたび笑みを浮かべた。
「春菊……また何かおかしなことを考えているね……?」
それなのに、谷嶋は春菊が今、どういう心境でいるのかをすべて見透かしている。
谷嶋はぽつりと呟き、腕から抜け出そうと広い胸板を押す春菊の肩に手を回した。
突然息苦しくなった春菊は目をこじ開けた。
何事かと思い、目を瞬かせ、そうして今置かれている自分の状況に驚いた。
それは、近くにあった薄い唇が、春菊の口を塞いだからだ……。
なぜ、こうなっているのだろうか。
突然の出来事に、春菊の頭が真っ白になってしまう。
(匡也さんっ!!)
春菊は、狂おしいほどの熱を感じて、反射的に谷嶋の反物を掴んだ。
どれくらい、口づけされていただろうか。
ややあって、谷嶋の唇が離れた。
頭がぼうっとなり、もはや春菊の思考回路は停止してしまった。