ひめごと。
今、抱きしめられているのも、さっきの口づけも全部、彼なりの慰め方なんだと思えば、とてもではないが、この痛む胸に耐えることができなかった。
せっかく止めた涙が、じんわりと、また溢れてくる。
「春菊?」
涙を流す春菊の頭上から、自分を気遣う優しい声が落ちてくる。
(やめて!! 心配そうな声で名前を呼ばないで!!)
「いい……もう、やめてください……わたし、ココを出て行きますから……」
谷嶋を想って溢れた涙は頬を伝い、一筋の線を作って流れていく。
その涙は、彼の反物を掴んでいる春菊の手の甲に落ちた。
「春菊? お前は何を言って……」
「もう、いいんです。これ以上、傍にいちゃいけないことくらい、分かってますからっ!!」
募っていくばかりの想いを断ち切るため、春菊は谷嶋の言葉を遮った。