ひめごと。



「怖い夢っていうのは、ほんとうは嘘です。匡也さんに好きだと告げられた夢を見たんです。そんなこと、ないのに……。だけど、貴方のお傍にいると、それが現実だと思い込んでしまいそうになる!!

現実と夢の区別がつかなくなる前に、早くココから出たいんです……」



(匡也さんの邪魔にならないうちに……)

 春菊は彼から離れるため、真実を告げた。

 静かになった空間の中、春菊のシャクリだけが響く。

 だからこれで彼とはお別れなんだと、春菊は思った。

 だって、彼には有望な未来がある。いつまでも傍に居られるわけがないのだ。

 そう自分に言い聞かせ、絶望に暮れる春菊だが、それはすぐに打ち消される。

 ふいに、春菊の身体が浮いた。

 ――そうかと思えば、敷布団の上で横たわる。

 何事かと思った矢先、谷嶋の熱い吐息が、春菊の耳をかすめた。

 谷嶋が春菊を抱きしめる。


< 38 / 41 >

この作品をシェア

pagetop