ひめごと。
その時だ。ふいに谷嶋と目が合い、揺るぎない意思を持った漆黒の瞳に射抜かれた。
「ええ、そうしましょう」
「……は?」
頷き、静かに告げた谷嶋の前に座っていた楼主は目を瞬かせ、口をあんぐりと開けている。
春菊も谷嶋の言った意味が分からず、時が止まってしまったかのように動かない。
「春菊を身請けします、これで文句はありませんね。金子(きんす)は明日、春菊を迎えに来た時にお渡しします!」
告げると、谷嶋は春菊の小さな肩に手を乗せ、春菊が大好きな微笑みを見せた。
「いいね? 春菊」
谷嶋の言葉に春菊は何も考える間もなく、柔らかな笑みを向けてくる谷嶋に見惚(みと)れ、ただコクンと首を上下に動かす。
「それでは明日迎えに来ます」
谷嶋を見送るため、大門の前までやって来た彼にそう言われて、再びコクンと頷く春菊だった。
夕日が広い背中を照らし、とても神々しい。
その姿に見惚れ、何時までも立ち続けていた。