ひめごと。
苦しい心持ちのまま、禿に付き添われ、門前に出ると、そこには二つの影があった。
金子を渡したのか、雇い主である男の隣で谷嶋がふんわりと優しい笑みを向けてこちらを見ている。
それだけで跳ねる心臓。
目の前の彼に手を取られれば、早鐘のように鳴り響く。
「美しいよ、春菊」
ただでさえ胸が熱を持っているのに、そんなことを耳元で言われれば蕩(とろ)けそうになる。
彼と共に進む石畳の上で何度も下駄が引っかかり、転びそうになった。
進む先には高級そうな黒塗りの馬車が一台止まっている。金で売られた自分には振り返ることは許されない。
そうして春菊は廓を離れ、少し離れた彼の立派な屋敷で世話になることになった。
屋敷は和と洋を取り入れた大きな家で、春菊は自分の部屋をあてがわれ、身の回りの世話をしてくれる侍女が付いた。
谷嶋とは別室で過ごしていた。